東京高等裁判所 昭和29年(う)734号 判決
被告人 田原七蔵
〔抄 録〕
弁護人A外二名の論旨第一点について。
原判決挙示の証拠によれば、原判示第一の(1)(2)の各金銭供与を受けた所為と、原判示第二の(1)乃至(3)及び第三の(1)乃至(3)の各金銭供与の所為が夫々別個に独立して成立することが明白である。所論は右第一の(1)(2)の所為は被告人と砂山忠雄が選挙運動者に対し金銭を供与することを共謀の上、被告人が砂山から金五万円或は金一万六千円を夫々受領し(原判示第一(1)(2)参照)これが分与方を託されたものであるから、その後における各金銭供与罪以外に独立して金五万円或は金一万六千円の金銭供与を受けた罪が成立しないと主張する。しかし被告人が砂山忠雄と金銭供与を共謀したとの所論事実はこれを認められない。とりわけ原判示第二の(1)に判示せられた山崎甚之丞に対する金一万円の供与及び同下鳥安治に対する金二万円の供与はいずれも被告人が砂山から金五万円を受け取るよりも以前の事であつて、山崎、下鳥に対する前記供与行為にも砂山が共謀であつたとの所論は到底認められない。而して、砂山忠雄が大和川村に金三万円浦本村に金二万円を配分するよう指示して被告人に選挙運動の報酬資金として金五万円を与えたとの事実は記録上認め得ないわけではない。しかし前掲各証拠によれば砂山と被告人との間に於て右金五万円を配分するについて、大和川村及び浦本村の誰を選挙運動の適任者として選ぶか又その選ばれた人に果してどれだけの金額を与えるかについては少しも話がついていないのであり、これらの事項については一切被告人に委ねられていたものと認められるのみならず、被告人自身大和川村(現在糸魚川市に合併済)の有力者で選挙に関する経験も豊富で情勢の判断に長けていることでもあるから、前記砂山からの五万円を他の何人にどれだけの金を与えるかを決定すると共に被告人自身の選挙運動報酬を受け取ることとして右金五万円の一部を自己のために保有しておくことも可能であり、前記のように大和川三万円、浦本二万円という分配方法はとりも直さず金額を特定しないで被告人自身に対する選挙運動報酬等としての金員供与を含むものと認められるのである。この事は被告人が右金五万円の中他人に現実に供与した金員を除いてもなお二万二千円が残存することからしても十分認められるところといわなければならない。このように第三者に対して供与すべき金員を受領したときでも、その金額や相手方が特定されていないで、被告人の裁量に一任されたときには、一応その金額を被告人が供与を受け、その独自の裁量に基いて更に他に供与すれば足りるのであるから、公職選挙法第二百二十一条第一項第四号の罪が独立して成立するものと解するのを相当とし、殊に本件にあつては、被告人に供与された金銭と第三者に供与すべき金銭とが包括して被告人に交付された場合なのであり被告人に於てその後一部の金員中より第三者に交付した犯行とは別途に金銭供与を受けた犯罪が成立すること明白なところである。してみれば原審が敍上の見解と同一見地に立つて判示第一の(1)の五万円につき判示第二の金銭供与罪とは独立して供与を受けた犯罪が成立するものとしたのは正当で右法令の解釈は少しも違法ではない。所論引用の判例はいずれも本件に適切ではない。
原判示第一の(2)の金一万六千円についても前段同様であり、被告人が砂山忠雄より大和川浦本両村に対する包括的分配方法を定めただけで具体的に金銭を供与すべき人やこれに対する金額を決しないままで、これを被告人の裁量に任せられて金員を受領した行為については、その全額につき金銭供与を受けた罪が成立するのである。
論旨は独自の見解の下に原判決の正当な法令解釈を非難するもので理由がない。